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診療案内

外科得意分野及び対象疾患

 

1.当科の特徴について

 当科では、 進行がんも含めたほぼすべての胃がん症例に対して、患者さんにやさしい低侵襲手術(腹腔鏡下手術、ロボット支援下手術)を第一選択としています。また、術後すぐに「痛み」を感じさせないケア(痛みを感じる前に、鎮痛剤を予防投与する等)に取り組んでおり、それが術後の早期回復、早期退院(術後1週程度で退院可能です)にも寄与しています。

 

2.胃がんの手術について

 胃がんの手術方法(術式)は、腫瘍の部位や進行度によって、以下の4つに分類されます。どの術式においても、切除後は食事の通り道を再建(つなぎ直す)しますので、術翌日から水分を、術後2-3日目から食事を摂取することができます。

 

A. 幽門側胃切除術

 胃の出口側の約3分の2を切除する術式です。この範囲に腫瘍が存在する場合に選択します。ピロリ菌が関与する胃がんの好発部位であり、全国的にも一番多く行われている術式です。

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B. 胃全摘術

 胃の入口側や広い範囲に腫瘍が存在し、他の術式では取りきれない場合は、胃をすべて摘出する必要があります。「胃をすべて摘出する」=「食事がほとんど入らなくなる」と心配される方が多いですが、当科ではつなぎ目が狭くならないよう工夫して再建を行っており、長期的には幽門側胃切除術後の方とほぼ同等の食事量が摂取できるようになります。

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C. 噴門側胃切除術

 食道の出口から胃の入口(食道胃接合部と呼ばれています)に腫瘍が存在し、胃の出口側半分を残せる場合に選択します。近年、ピロリ菌と無関係の胃がんが全国的に増加してきており、原因として胃酸の逆流が関与していると考えられています。「逆流性食道炎」という病名からも想像できるように、食道胃接合部はその好発部位です。この術式は、胃の出口側半分を残せるというメリットがありますが、食道と胃を単純につなぐだけでは、胃酸の逆流により高度の食道炎を引き起こすことが知られており、胃酸が食道に逆流しにくいような再建の工夫に当科でも取り組んでおります。

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D. 幽門保存胃切除術

 胃の中央に腫瘍が存在し、かつ早期がんの場合は、機能温存手術としてこの術式を選択することがあります。胃の出口(幽門)が保存されているため、胃切除後障害が軽減されると考えられております。

図4.jpg

 

 

3.腹腔鏡下手術について

 従来の開腹手術と比べ、整容面はもちろんのこと、創が小さいので術後の創痛が少なく、離床が早くなる(術後の回復が早い)のがメリットとされています。特に高齢者では、早期の離床が術後せん妄(いわゆる痴呆)の予防に有効です。
 一方、手術をするわれわれ外科医が考えるメリットはこれだけではありません。腹腔鏡による拡大視とそれによってもたらされる精緻な手術こそが、最大のメリットと考えています。高精細スコープによって傷つけてはいけない血管や臓器が容易に確認でき、正確で出血の少ない手術が可能となりました。術後の合併症減少への貢献はもとより、最終的にはがんの根治性向上に結びつくものと考えています。

 

4.胃がんに対する腹腔鏡下胃切除について

 腹腔鏡下胃切除は、日本胃がん学会による「胃がん治療ガイドライン」では、早期胃がん症例でのみ日常診療の選択肢になりうるとされています1)。そういった事情もあり、腹腔鏡下胃切除の対象を早期胃がんに限定している施設が多いのが現状です。しかしながら、手術症例数が多く、手技が定型化されている施設においては、段階的に適応が拡大されてきており、現在では進行胃がんに対しても安全かつ根治性を担保した腹腔鏡下胃切除を行うことができることが証明されつつあります2,3)。

 当科では、2004年から早期胃がんに対して腹腔鏡下胃切除を導入しました。日本内視鏡外科学会の技術認定医(腹腔鏡下胃切除を指導する立場)は4名在籍する恵まれた環境の中、症例数の蓄積や手技の定型化をふまえて適応を段階的に拡大し、現在では進行がんも含めたすべての胃がん症例に対して腹腔鏡下胃切除を第一選択としています。最近では、術後の合併症をほとんど経験しないことから、予防的ドレーン(手術終了時に腹腔内に挿入する細いチューブ)留置を省略しており、前述した「痛み」を感じさせないケアに積極的に取り組んでいます。

 

5.ロボット支援下手術について

 ロボット支援下手術は全国的に普及しはじめており、当科では2019年にロボット支援下胃切除術を導入し、2020年4月より保険診療で行うことができるようになりました。
多関節機能、手ぶれ防止機構などのロボットの特徴を生かすことで、従来の手術方法よりさらに精緻な手術が行えるようになりました(図5)。その特徴により、胃がん手術における代表的な術後合併症のひとつである「膵液瘻(すいえきろう)」を低減させる可能性が報告されています4)
 ロボット支援下手術によって、手術が必要な患者さんが、より安全かつ低侵襲な治療を受けることができる時代となりました。

胃 ダビンチ手術.png

 

参考文献

1) 日本胃癌学会編:胃癌治療ガイドライン(医師用2018年1月改訂). 第5版, 金原出版, 東京,2018. 
2) Lee HJ, et al.:Short-term Outcomes of a Multicenter Randomized Controlled Trial Comparing Laparoscopic Distal Gastrectomy With D2 Lymphadenectomy to Open Distal Gastrectomy for Locally Advanced Gastric Cancer (KLASS-02-RCT). Ann Surg. 2019 Dec; 270(6): 983-991.
3) Yu J, et al.:Effect of Laparoscopic vs Open Distal Gastrectomy on 3-Year Disease-Free Survival in Patients With Locally Advanced Gastric Cancer: The CLASS-01 Randomized Clinical Trial. JAMA. 2019 May 28; 321(20): 1983-1992.
4) Uyama I, et al.:Clinical Advantages of Robotic Gastrectomy for Clinical Stage I/II Gastric Cancer: A Multi-Institutional Prospective Single-Arm Study. Gastric Cancer. 2019 Mar; 22(2):377-385.

 

 肝臓の手術は年間70件程度行っています(肝切除総数は2021年までにのべ約1620件)。外来診療では主に空閑(火曜日外来)が肝臓の外科治療に関して担当しています。進行肝がんや多発した転移性肝がんなど他の病院で手術が難しいと言われた患者さんに対しても手術が可能かにつき検討し、根治する可能性がある場合には積極的に手術を行っていますので、ご相談ください。
 治療を行っている主な疾患は肝細胞がん、肝内胆管がん、肝門部胆管がん、転移性肝がん(主に大腸・直腸がん)です。安全な肝切除を行うためにCT画像から3Dの肝血管像作成(図1)、肝切除量の体積計算(図2)を行っています。これらの結果をもとに術前に十分な手術のシミュレーションを行い、プランを立てて手術に臨んでいます。当院では肝臓手術に用いる専門的な医療機器(超音波吸引装置、ベッセルシーリングシステム、コンピュター制御電気メスシステム等)を取り揃えており、これらの最新鋭の手術機器を用いて安全で出血の少ない手術を行っています。症例によっては術中ICG蛍光法(図3)を用いた腫瘍の検索や切除範囲の決定も行っています。
 一方、ソフト面では医師・看護師・理学療法士・薬剤師・管理栄養士が協力してチーム医療を行っております。術前からリハビリを開始し、専門的に薬剤や栄養の管理することで手術後に早期の退院・社会復帰ができるように心がけています。高齢の肝臓がん患者さんに対しても積極的に肝切除を行い良好な結果を得ています。
 当院は、日本肝胆膵外科学会 高度技能専門医認定修練施設Aに認定されています。高度技能専門医認定修練施設とは難易度が高い肝胆膵外科手術を安全・確実に行うことができる外科医の育成施設として認定された施設のことです。施設Aは認定施設のなかでも高難易度手術をより多く行っている施設のことです。2022年4月時点で、高度技能専門医認定修練施設Aは福岡県内で当院を含め6施設あり、北九州では当院のみです。詳細は日本肝胆膵外科学会のwebサイトをご覧ください。

高度技能専門医とは|一般社団法人 日本肝胆膵外科学会[外部リンク]

 

図1   図2   図3

 

1. 肝細胞がん

 2021年までに肝細胞がんに対してのべ914例の肝切除を行っており、初回肝切除からの5年・10年生存率は56%・31%です(図4)。肝細胞がんは、手術後も肝臓への再発が起こりやすく、再発時にも適切な治療選択が重要です。この成績は再発後の内科(ラジオ波治療、薬物治療)や放射線科(血管造影治療)による治療を含めた当院における総合的な治療成績を示しています。再発に対して手術が望ましい場合には再肝切除も積極的に行っています。肝炎ウイルス由来の肝細胞がん切除後の再発抑制には抗ウイルス治療が重要であり、病状に合わせて肝臓内科でB型肝炎やC型肝炎ウイルスに対する治療を行っています。

 また、近年わが国ではC型肝細胞がんの減少と非B非C型肝細胞がん(非アルコール性脂肪肝炎からの肝細胞がんなど)の増加が指摘されており、当科でもその傾向が示されています(図5)。

 

図4   図5



2. 肝内胆管がん・肝門部胆管がん

 これまでに胆管がんに対する肝切除を100例以上行っています。この疾患ではがんによる胆管の閉塞により黄疸を伴っていることがあります。この場合、手術に先立って消化器内科の専門医により黄疸を改善する内視鏡治療を行ってもらいます。その後に肝臓の機能の改善を待って安全に手術を行っています。また、胆管がんは胆管に沿って広範囲に進展することが多く、大量肝切除が必要となることが多い疾患です。大量に肝臓を切除すると残った肝臓が小さくなり、手術後に肝臓が持ちこたえられなくなる術後肝不全が起きることがあります。この肝不全を回避するため、手術前に切除量の正確な評価を行い、必要があれば手術で残る部分の肝臓を肥大させる処置(門脈塞栓療法)を行ってから安全に手術を施行しています。胆管がんの手術は肝切除、リンパ節郭清、胆道再建(残った胆管と腸をつなぐ)が必要な場合が多く、非常に難易度が高く長時間に及ぶ手術ですが、出血量の少ない丁寧な手術を心掛けています。



3. 転移性肝がん

 他臓器から肝臓に転移したがんに対しても手術が有効な治療となることがあります。大腸・直腸がん、GIST、神経内分泌腫瘍からの肝臓への転移は、切除可能であれば手術を行うのが望ましいと考えられています。大腸・直腸がんの肝転移に対して、2021年までにのべ533例の肝切除を行っており、初回肝切除からの5年・10年生存率は40%・29%です。現時点では、肝転移が治癒する可能性がある治療法は肝切除であり、繰り返し肝切除を行うことも少なくありません。抗がん剤治療の進歩により発見時には切除不能な肝転移でも抗がん剤治療を行い転移が縮小すれば切除可能となるケースもあります。
 大腸がんの肝転移は転移の個数・大きさと大腸がんのリンパ節転移の程度でGrade A, B, Cに分類されます(図6)。最も予後良好なGrade Aの肝転移であれば、肝切除により50%以上の5年生存率が得られています。手術とともに種々の薬剤を用いた抗がん剤治療を行うことにより、以前より明らかに生存期間の延長が得られるようになってきています。

図6

 

4. 腹腔鏡下肝切除術

 胆石、胃がん、大腸がんなどに対する腹腔鏡手術が普及していますが、肝臓の腹腔鏡手術は難易度が高く一部の施設でしか行われていません。当科では、2021年までに累計199例の腹腔鏡(補助)下肝切除術を行っています。外側区域切除術や部分切除を中心に難易度の高い系統的な肝切除にも適応を拡大し、肝切除全体の約40%を腹腔鏡下に行っています。

 

 

甲状腺

 

 乳腺甲状腺外科は2012年より内分泌外科学会認定施設となり、年間60例程度、これまでに500例を超える甲状腺・副甲状腺疾患に対して手術を行っています。

 火曜日に光山、水曜日に古賀が甲状腺外来診療を担当し、甲状腺内科外来(木曜日)及び内分泌代謝・糖尿病内科外来(月〜金曜日)と連携し、甲状腺および副甲状腺疾患の診療を行っています。

 また、手術時には術後の声帯麻痺発生のリスク低減を目的として、甲状腺悪性腫瘍やバセドウ病での甲状腺全摘手術症例に対して、術中神経刺激装置の使用を積極的に導入しています。さらに術後の整容性向上のため、従来法より切開創を小さくでき、創部皮膚保護および視野確保が可能なデバイスを使用するなど、手術安全性と癌の根治性および整容性を高いバランスで行えるように心がけています。

 術後の再発リスクが高いと判断される症例では再発チェックや再発リスク低減に有用と期待される、外来での放射性ヨード(I-131, 30mCi)を用いた内用療法を導入し、これまで50例を超える症例で施行しています。高い整容性を希望される患者さんには老若男女を問わず、皮膚科および皮膚・排泄ケア認定看護師との協力診療で創部のケアを行っています。

 残念ながら再発を来した症例に関しては、腫瘍内科医・がん化学療法看護認定看護師や放射線治療医・がん放射線療法認定看護と連携し、本邦や欧米の診療ガイドラインに沿い、手術・分子標的治療(≒抗癌剤)・放射線治療を用いた集学的治療を行うなど、当院の強みでもある各科専門医や多職種との連携も図り、甲状腺・副甲状腺疾患診療を行っています。

 

 

食道

1.食道癌の手術・治療について 

 食道癌の標準的な手術法は、食道癌を切除しリンパ節を郭清する(胸部操作)、切除した食道のかわりに新たな食物の通過経路としての胃管を作成する(腹部操作)、残存食道と胃管を吻合する(頸部操作) から構成されています(図1)。
 手術は、この3領域(頸部・胸部・腹部)のリンパ節郭清を伴う食道切除・再建術を基本としています。また、術前化学療法の有効性を示したJCOG9907の結果を踏まえて、臨床病期ⅡおよびⅢ期の食道癌に対しては予後改善を目指し, 術前化学療法後の根治術を行っております。

2.当科の特徴について

 当科では、年間約30例程度の食道癌手術を行っており(図2)、 2013年には食道外科専門医認定施設に認定されました。
 一般に食道癌は、「食道癌の手術侵襲は過大で危険、術後のQOLも悪い」と考えられています。そこで当院ではこれらを克服するためにさまざまな取り組みを行っています。

  1. 胸腔鏡・腹腔鏡手術の導入・定型化
     従来の食道癌手術は、 開胸+開腹による高侵襲手術でしたが、 手術侵襲の軽減を目的として、2005年より開胸手術から胸腔鏡手術へ、2007年より開腹手術から腹腔鏡下胃管作成術へ移行しました。それにより、 すべての症例で胸部・腹部に大きな傷のない完全鏡視下手術を行えるようになりました。2009年からはそれまでの側臥位から腹臥位へ体位を変更しました(図3)。腹臥位では、肺・心臓・手術中に発生する体液などが、重力と人工気胸によって腹側に偏位することで背側(縦隔)の手術操作領域の視野が良好となりました。これにより、さらに安全かつ精緻な手術を行うことができるようになりました(図4)。2020年9月からはロボット支援下手術も行っており、 反回神経麻痺などの周術期合併症低減が期待されます(図5)。
  2. 血行再建を伴う消化管再建手術
     熟練した心臓血管外科医の協力のもと、胃切除後食道癌に対しても血行再建を伴う有茎空腸を用いた消化管再建手術を安全に行えるようになりました(図6)。以前は再建の問題から手術を断念せざるを得なかった症例に対しても手術可能となり、手術適応は拡大しています。
  3. 周術期管理チーム結成
     2018年から、術後のQOLの改善のため、術前から外科・麻酔科医師,手術看護認定看護師を中心に、理学療法士、言語聴覚士、集中ケア認定看護師らで構成された周術期管理チームが結成されました。手術目的で入院されたすべての患者さんに、周術期管理チームに介入して、術前オリエンテーションや呼吸訓練、嚥下訓練など手術に向けての準備を行っています。また、術後も呼吸器リハビリを積極的に導入することで、無気肺などの術後肺合併症は激減しています。さらに、早期から嚥下リハビリを行うことで誤嚥性肺炎のリスクも軽減しました。 
  4. 治療成績
     これらさまざまな取り組みの結果、術後の早期退院・早期社会復帰も可能となっています。
     手術の危険性を最も端的に示す「合併症による死亡率」は全国的には2~5%ですが、最近5年間当院では術後在院死は0.7%(1/135例)と安全な手術が行われています。
     また、術後5年生存率は最終病期0期100.0%、Ⅰ期94.1%、Ⅱ期 72.5%、Ⅲ期 35.5%、Ⅳ期 22.9%と良好な成績です(図7)。

図1   図2   図3  図4  図5   図6   図7

 

大腸・肛門

外科治療の対象となる大腸疾患

 大腸疾患の中で手術の対象となるものの多くは大腸がんです。その他にも、薬物治療などの内科的治療に抵抗性の炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)、穿孔や狭窄をきたした大腸憩室炎、腸閉塞症などが外科治療の対象となります。
 当院では、日本大腸肛門病学会や日本内視鏡学会などの専門学会の認定を受けた専門医・技術認定医が中心となって手術を行っています。

大腸がんとは

 大腸がんは日本でも増加傾向を示しており、がんによる死亡数で男性では第3位、女性では第1位と、がんによる死因の多くを占めています。がんは大腸の内側にある粘膜から発生し、進行すると大腸の壁の外側に広がっていきます。がんが大きくなると、がんから出血して下血(肛門からの出血)を起こして貧血になったり、腸閉塞(がんによって腸の内腔がつまり、ガスや便が出ず、腹痛・嘔吐が出現する)になったりします。さらに進行すると、がんの周囲の臓器(小腸、膀胱、尿管、子宮・膣、前立腺)に食い込んでいったり(浸潤)、癌細胞が血液やリンパ液の流れにのって、肝臓、肺、脳、骨などにがんが入り込んでしこりを作る(転移)ことがあります。また、がんが大腸の壁を突き破りお腹の中に広がり(腹膜播種)、お腹に水がたまったり(腹水)することもあります。

 

大腸がんに対する手術について

 はじめてみつかった大腸がん(原発性大腸がん)に対しては、「根治性」(がんを完全にとり除いて治癒させること)、「機能温存」(もともとある臓器の機能をできる限り残して日常生活に影響がでないようにすること)を両立させた手術を行っています。そのために、私たちが行っている大腸がん手術の9割以上が、「腹腔鏡手術」になります。がんを取り残さないように切除するとともに、大腸を栄養する血管に沿って存在する転移をきたす可能性のあるリンパ節を取り除く「リンパ節郭清」を精緻に行っています。
 また、私たちの手術の特徴として、原発性大腸がんだけでなく、再発した大腸がんや、周りの他の臓器に食い込んでいるような進行した大腸がんに対しても多くの症例で腹腔鏡手術を行っています。

図1

 

腹腔鏡手術とは

 

 開腹手術よりも小さな創(きず)で行う、体への負担が少ない手術です。「ポート」という器具を小さく開けた創に入れ、炭酸ガスを注入してお腹を膨らませます。そして「腹腔鏡」という高性能カメラでお腹の中をモニター画面に映し出し、「鉗子」という器械を使用して手術を行います。従来の開腹手術と比較して、腹腔鏡手術はきずが小さいため、術後の痛みがより少なく、手術の翌日から歩くことが可能になります。また、高性能カメラでお腹の組織を拡大してモニターに映し出すため、開腹手術では分からないような微細な解剖(極細の血管や神経)を確認できることなどにより、開腹手術よりも出血量が少なくなるなどのメリットがあります。ただ、手術時間が開腹手術よりもかかり、お腹全体を広く確認することが出来ず、直接手で触って確認することができないことが腹腔鏡手術の短所になります。2018年には当院の大腸癌手術症例数のうちおよそ9割を腹腔鏡手術で行っています。腹腔鏡手術の実施には一定の技術が必要ですが、経験を積んだスタッフが、これらの短所にも十分配慮しつつ、手術で最も重要な「安全性」と「根治性」を重視して腹腔鏡手術を行っています。また、体格やがんの進行度に応じて、さらに切開するキズの数や大きさを減らすことで身体への負担をさらに小さくする手術(「単孔式腹腔鏡手術」)も行っています。

図2   図3   図4

 

術後補助化学療法

 手術後の再発リスクの高い方には術後の抗がん剤治療を行い、再発リスクの軽減に努めています。

 

再発、切除不能大腸がんに対する外科手術の役割

 不幸にして手術後に再発をきたしてしまった場合や、がんがもともと切除不可能な状態で見つかった大腸がんの場合、薬物療法(抗がん剤や分子標的治療薬)や放射線療法を組み合わせて治療を行います。そのような治療が功を奏してがんが小さくなったり、長期間の抗がん剤投与の副作用やがんの進行で抗がん剤投与を続けられなくなったりした場合も、適切なタイミングで手術(サルベージ手術)を行っています。サルベージ手術の後に再び抗がん剤などを行うことで、局所再発や遠隔転移再発をきたした方でも、長期にわたり生存しておられる方もいます。

他科との連携

 当院は、多くのがんの患者さんが集まるがんの専門機関です。特に進行したがんや再発したがんについては、定期的にがん診療に携わる医師(外科、消化器内科、腫瘍内科、放射線科、病理診断科など)やがんの認定看護師が集まってカンファレンスを行い、患者さんお一人お一人に合った最適ながん治療を行っています。

肛門温存手術

 直腸がんでも特に肛門に近接するがんの場合、肛門を残すことができず永久人工肛門になります。当科では肛門に極めて近い直腸がんでもその病状に応じて肛門の括約筋を一部切除しつつ肛門を温存する手術を行っており、良好な生活の質の維持に努めています。

 

膵・胆道

先進的診断技術による診断、癌の根治性の追求、迅速な対応、内視鏡手術の推進を主眼に据えて診療を行っています。

先進的診断技術による診断

 胆道、膵臓の疾患の、診断には高い専門性が要求されます。そして、胆道癌、膵臓癌においては正確な診断を行うことが、治療法を選択するうえで非常に大切です。当院では、胆・膵を専門とする優秀な消化器内科医師が複数おり、胆道および膵臓の疾患の患者様の正確な診断にあたっています。具体的には、CT、MRI、超音波内視鏡(EUS)による画像評価を行うことに加えて、超音波内視鏡による穿刺吸引細胞診(EUS-FNA)や内視鏡的逆光性胆道膵管造影(ERCP)などの専門的検査手技により腫瘍の細胞を採取して、発見された腫瘍が悪性腫瘍(癌など)であるかどうかの確定診断を行います。様々な検査が行える体制を整えることで、確定診断を得ることができる確率は高まります。正確な診断を行うことが、大きな手術が必要な患者様にとって、その治療法を選択して頂く上で非常に重要です。

癌の根治性の追求

 抗癌剤が進歩した今日においても、胆道癌、膵臓癌の根治(癌が治ること)には手術が必要です。我々はその手術の重要性を十分に認識しています。患者様一人一人の腫瘍の広がりを綿密に検討し、癌を根治させるために最良の手術を行うように心がけています。そのために、院内において外科医だけでなく消化器内科医師、放射線科医師、病理診断医師とも密に連携を取っています。また、一方で癌が進行すると手術で癌を完全に取り除くのが不可能な状態となります。そのような場合でも、抗癌剤の進歩により、進行した胆道癌や膵臓癌が縮小し、肉眼的治癒切除を行えるようになる場合がありますので当院にご相談ください。

迅速な対応

 癌を患った患者様の治療が早急に開始できるように、できるだけ迅速な診断・治療に勤めています。放射線科や消化器内科などの協力で、来院当日に検査を行うことも可能です(絶食での来院をお願いします)。
 当院外来通院中の患者様で、万が一具合が悪くなられた方には24時間対応する体制を整えています。そのため、安心して外来化学療法などの治療を受けて頂くことが可能です。

内視鏡手術の推進

 良性腫瘍、良悪性境界領域の疾患に対しては、内視鏡手術を推進しています。
 良性の膵腫瘍に対しては脾臓を温存して必要最低限の膵臓を切除する内視鏡下脾臓温存膵体尾部切除を行っています。
 癌の進行により手術の出来ない患者様や癌が再発された患者様には、減黄(黄疸を改善する処置)、化学療法(抗癌剤治療)、疼痛緩和治療(痛みや苦痛を取る治療)などにより患者様の症状を緩和し有意義な生活を送れるように、消化器内科や緩和ケア科と協力して診療を行っています。これらの治療は無駄な入院を避けるため出来る限り外来で施行しています。

  • 日本肝胆膵外科学会 高度技能専門医認定修練施設

 当院は、日本肝胆膵外科学会 高度技能専門医認定修練施設Aに認定されています。
専門医/指導医/施設検索|一般社団法人 日本肝胆膵外科学会[外部リンク]
2022年4月時点で、高度技能専門医認定修練施設Aは福岡県で当院を含め7施設あり、北九州では当院のみです。

 肝胆膵外科手術は、消化器外科手術の中でも特に難易度が高いといわれています。
 「高難度の手術をより安全かつ確実に行うことができる外科医師を育てる」 ことを目的として、日本肝胆膵外科学会という肝胆膵手術の専門家が中心になり2008年に専門医制度を制定しました。
 高度技能指導医あるいは高度技能専門医が1名以上常勤している病院のうち、1年間に高難度肝胆膵外科手術を50例以上行っている施設を修練施設(A)、30例以上行っている施設を修練施設(B)としています。

詳細は日本肝胆膵外科学会のwebサイトをご覧ください。
高度技能専門医とは|一般社団法人 日本肝胆膵外科学会[外部リンク]

診療実績

 日本全国での膵癌の手術の死亡率は約1%(2018年度 日本肝胆膵外科学会より)と報告されていますが、幸い、当院ではこの10年以上、膵手術での手術死亡例はありません。 2021年は66例の胆道および膵臓がんに対する手術を行いました。 膵切除は61例で行い、うち32例が膵頭十二指腸切除でした。 難治性の膵癌でも長期生存される患者様が出るようになりました。

乳腺

 当院は、日本乳癌学会の認定施設であり、西日本有数の診療実績をあげています。外来診療は、月曜日から金曜日まで乳腺専門医が交代で診療にあたっており、全ての患者さんにエビデンスに基づいた治療の推奨が可能となっています。

 

手術実績

 当院では、乳腺専門医・認定医が主として手術を担当しており、2021年の初発乳がんに対する手術件数は311件でした。
 2019年4月には女性病棟を開設し、女性特有の疾患にも配慮した診療、ケアが提供できる体制を整えています。

 

外来化学療法

 2008年より専任の腫瘍内科医のもと、外来化学療法センターで年間延べ5,000件を超える乳がんに対する抗がん治療を行っています。

 

遺伝性乳癌卵巣癌症候群に対する診療

 当院は、遺伝性乳癌卵巣癌症候群が疑われる乳がん患者さんに対するBRCA遺伝子検査、遺伝カウンセリングと、遺伝性乳癌卵巣癌症候群と診断された乳がん患者さんに対するリスク低減乳房切除術、リスク低減卵巣卵管切除術を施行できる施設として認定されております。

 

人工乳房再建

 2013年の保険適用に伴い、乳房再建用エキスパンダー責任医師(乳腺専門医)と非常勤の形成外科医が連携のもと、一次二期再建におけるエキスパンダー挿入を行っています。

 

セカンドオピニオン外来

 乳腺専門医が、乳腺疾患の診断、治療に関するセカンドオピニオン外来を随時行っています。

 

 

内視鏡手術

 内視鏡(腹腔鏡・胸腔鏡)外科手術は、手術創が小さく低侵襲であるなどの利点から消化器外科領域では広く応用されています。しかし、内視鏡下の手術野で、特殊な器具を用いて行う手術であり、通常の開腹手術とは異なる高度な技術が要求されます。
 2004年から日本内視鏡外科学会技術認定医制度が発足しました。内視鏡外科学会技術認定医とは、内視鏡手術を安全かつ適切に遂行する技術を有し、かつ指導するに足る技量を有していることが認定された医師です。
 当院外科では、6名の内視鏡外科学会技術認定医が中心となって、上部消化管、下部消化管、肝胆膵領域の内視鏡外科手術を行っております。
 2019年の内視鏡外科手術の症例数は、食道28例、胃107例、小腸・大腸・直腸222例、肝臓15例、膵臓3例、胆嚢・総胆管88例、その他21例でした。
 2019年10月には手術支援ロボット"ダ・ヴィンチ"が導入されました(図1)。"ダ・ヴィンチ"は,鮮明なハイヴィジョン3D画像と10倍までの拡大視、鉗子の多関節機能、手振れ防止、モーションスケーリング機能など、従来の内視鏡外科手術の欠点を補う特徴をもっています。
 当院では12月から胃癌および直腸癌へロボット支援下手術の導入がなされ、2020年4月からは施設基準を満たしたことで、ロボット支援下手術を保険診療で実施できるようになりました。

質問がございましたら、なんでも遠慮なく担当医にお尋ねください。

ダビンチ手術(内視鏡).jpg

 



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